FX外国為替取引投資の基礎知識と始め方!

FX為替相場の予測法

 
ファンダメンタルズに基づいた理論
将来の為替相場を予測する方法には、大きく分けてファンダメンタルズ分析とテクニカル分析という2つがあります。まずは、ファンダメンタルズ分析について解説を進めていきましょう。

最近の為替相場を知っている人なら、1ドルが100円を大きく割り込んで80円になればドルは安すぎる、逆に1ドルが130円以上になれば高すぎると感じることでしょう。なぜ1ドル80円は安すぎて、130円なら高すぎるのでしょうか?

為替相場に詳しい人でも、この問いに明確に答えられる人は、決して多くはありません。そもそも、高いか安いか判断するには、適正な水準を知る必要があります。では、本来あるべき為替相場の適正な水準とはどのくらいなのでしょうか。この命題に対して、あいまいな感覚ではなく合理的な説明をつけようとするのが、これから説明する為替相場決定理論と呼ばれる考え方です。

この理論は、通貨の価値は需要と供給によって決まることが前提になります。そして、需給は経済のファンダメンタルズによって左右されるという立場から、為替相場を把握しようというものです。ファンダメンタルズという言葉は、「経済の基礎的条件」と訳されます。具体的には、GDP成長率(経済成長率)、インフレ率、金利水準、国際収支、失業率といった経済指標で表すことができ、その通貨を発行する国のいわば経済的な基礎体力にあたります。為替相場は日々変動しているので、必ずしも為替相場決定理論通りにはなりませんが、中長期間で見れば、いくつかの経済指標の差が国家間の通貨の交換レートに影響を与えていることは確かです。


 
同じモノには1つの価格
例えば、東京である自動車1台の価格が250万円としましょう。同じ自動車が、横浜では200万円で売り出されました。この後、自動車価格はどのように変化していくかを考えてみましょう。その車を買いたい人は、東京に住んでいても横浜で買うでしょう。すると、横浜では自動車を買う人が増加して、需要が供給を上回ることで自動車価格は値上がりします。反対に、東京では自動車を買う人が減り、自動車価格は下がります。その結果、東京と横浜の自動車価格は、お互いにある水準に近づいていくのです。この考え方を一物一価の法則と呼びます。つまり、「同一のモノには、ただ1つの価格しか成立しない」というものです。

一物一価の法則に基づく購買力平価説
この一物一価の法則は、国際間でも成り立ち、各国の物価水準が適正な為替相場を決めていくとするのが購買力平価説です。この自動車価格が日本で200万円、アメリカで2万ドルなら、200万円と2
万ドルの価値は等しいと考えて、交換レートは1ドル=100円が適正水準ということになります。

イギリスの経済紙"The Economist" が世界各国のマクドナルド店で販売されているビッグマックの価格を調査し、指数化した数字をビッグマック平価として発表しています。世界のどこの店でもほとんど同じ材料を使っているから、基本的には同じ価格になるはずだ、という考えから作られたユニークな指標です。

しかし、実際には輸送コストや関税がかかるため、必ずしも一物一価の法則が成り立つわけではありません。


 
絶対的購買力平価説は平均的な物価水準が基準
輸送コストや関税のために、自動車やテレビといった個々の商品の値段を1つずつ比べれば国によって違いがあるかもしれません。

しかし、キャベツ、クリーニング代、自動車、パソコンといった複数の商品やサービスを1つの買い物カゴ(バスケット)に入れて、その買い物カゴの値段が日本で300万円、アメリカで3万ドルなら、1ドル=100円が購買力から見た適正水準だとする考え方もあります。この理論は絶対的購買力平価説と呼ばれ、平均的な物価水準に為替相場の基準を求めています。

相対的購買力平価説は物価上昇率に基準をおく
このほかに、物価の上昇率、つまりインフレ率が為替相場を決めるという理論もあります。これは相対的購買力平価説と呼ばれ、絶対的購買力平価説よりも説得力があるようです。なぜなら、買い物カゴに入れる商品をまったく同一にするのは難しく、税金も国によってまちまちだからです。物価上昇率はモノに対するお金の価値の増減を表すので、各通貨の相対的な強弱を測る尺度としてふさわしいといえます。

フィリピンは日本製の自動車の輸入規制をしましたが、例えば、1年前に1,000万ペソだった自動車が倍の2,000万ペソに上昇したとします。少なくとも、この自動車に関してインフレ率は100%になったということです。つまり、この1年でお金の価値は2分の1になったといえます。一方、日本でこの自動車の値段は去年と変わらず100万円だとすれば、日本の物価上昇率は0%で、円というお金の価値は変わっていないことになります。


 
物価上昇率が為替相場に与える影響
物価上昇率が高ければ高いほど(インフレになればなるほど)、その国の通貨の価値(購買力)は減少します。自国通貨の価値が下がれば、ほかの国の通貨に対しても価値は下がることになります。
前項の例でいえば、昨年は100円=1,000ペソが、今年は100円=2,000ペソになったので、この国の通貨は日本円に対して半分の価値になったということです。

結論的にいえば、相対的購買力平価説では、物価上昇率の高い国の通貨は価値が下がり、物価上昇率の低い国の通貨は価値が上がることになります。

2国間の国際収支が相場を決める
日本とアメリカの2国間の経常収支(貿易収支)を見ると、アメリカは赤字で日本は黒字です。日本側は入ってくるドルのほうが出ていく分より多いので、日本の輸出業者はドルを円に替えようとします。その結果、「ドル売り・円買い」になり、為替レートが円高ドル安になります。このように為替レートの決定要因を2国間の経常収支に求めるのが国際収支説です。

アメリカの国際収支の発表が注目され、対日貿易赤字の増加予想で円が買われたりするのには、国際収支説の理論がベースとしてあります。日米の貿易収支を見ると、恒常的に日本が黒字、アメリカ
は赤字という状態が続いていますが、為替相場では円高ドル安という状況にはありません。これは資本収支で日本から米国に対する投資が多いからです。基軸通貨である米ドルは、貿易収支だけでははかれない難しさがあるといえそうです。


 
資本取引が相場を決めるアセットアプローチ
水が高い所から低い所へと流れるのとは逆に、お金は低金利の所から高金利の所へと流れる傾向があります。アメリカ国債の金利が日本国債の金利よりも高くて儲かると期待されたら、投資資金は日本からアメリカヘ流れます。同じように、アメリカの株式投資のほうが日本より儲かりそうなら、日本からアメリカヘ資本は移動します。このとき、投資家は日本の金融資産を売ってアメリカの金融資産を買うことになるので、為替レートは円安ドル高方向に動きます。

このように資本取引が為替レートの変動要因になるという考え方が、アセットアプローチです。資本取引の自由化が進んだ現在では、資本取引によるお金の動きがドルや円の需要・供給に大きな影響を
与えます。アセットアプローチは、比較的短期間の為替変動を説明するのに適しています。

市場参加者の心理状況が決める為替心理説
市場参加者の予測が為替レートを決めるという理論が為替心理説です。ドル高を予想してドルを買う人が多ければ円安ドル高になり、ドル安を予想する人が多ければドルが売られ円高ドル安になりま
す。この市場心理説は、為替相場独特のものではなく、株式市場や債券市場など商品が売買されるマーケットなら共通して見られます。

為替レートの予想要因は、国際収支や金利水準、金融政策などさまざまです。予想要因がそれぞれの投資家にどのような心理状態をもたらしたのかを判定できないのが為替心理説の弱点ですが、市場参加者の予想に基づいた売買行動が為替相場を動かしているのは確かです。この理論は、特に短期の為替変動に説得力があります。


 
為替レートを勤かす需給とは
サンマが大量に水揚げされれば、魚市場のセリでは安い値がつきます。反対に、漁獲期に入っても不漁で水揚げが少なければ、高騰するでしょう。

これと同じように、実際の為替レートは、前述の理論を使った計算ではなく需要と供給の力関係で決まります。円を売って米ドルを買いたい人が多ければ、米ドルは強くなり円は安くなるのです。為替市場でこの傾向が強くなればなるほど、どんどん円安は進行します。逆に米ドルを売って円を購入したい人が多くなれば、ドルは円に対して弱くなります。

為替市場ではそれぞれの通貨がそれぞれの需給を背景にして取引されていますが、ある通貨Aがほかの特定通貨Bに対して大きく変動すると、直ちにほかの通貨Cにも影響を及ぼすことがあります。A通貨とC通貨、あるいはB通貨とC通貨の為替レートも動くのです。このため多通貨間の交換レートであるクロスレートにも目を配っておかなければなりません。

需給に影響を与える要因
為替レートの需要と供給に最も直接的に影響するのは、何といっても金利です。金利は、その通貨を発行する国の中央銀行による金融政策を背景に決まります。その動向は、通貨発行国の金融資産や外貨準備高の多いか少ないかによって大きく変動することもあります。また、通貨を発行している国の景気動向や国際収支動向、その国の政治情勢も間接的に影響を与えるのです。次に、需給に影響を与える要因について、さらに詳しく見ていきましょう。


 
アメリカの利下げで市場が混乱
通貨を発行する国の中央銀行は、それぞれの国内事情によって金融政策を行います。政策金利を操作しながら金融を緩和したり、引き締めたりするのです。

2007年8月の急激な為替の変動と混乱は、いかに金融政策が需給バランスに影響を及ぼすかを教えてくれました。発端は、アメリカで表面化したいわゆるサブプライム問題です。これに対処するため、アメリカのFRBは政策金利を短期間に大きく引き下げて、短期金融市場に多くの資金を供給しました。一方、日本の中央銀行である日銀は、それまで続けてきた低金利政策の維持を決めたのです。

この結果、政策金利であるアメリカのFFレートと日本のコールレートの金利差は大幅に縮小。外国為替市場では、ドルを売って円を買い戻す動きが止まらず、外国為替市場の需給バランスは一気に崩れました。アメリカの金融政策の変更と円やユーロに連動する為替レートの動きを見ると、金利の低下と米ドルの下落が連動しているのが読み取れます。

オーストラリアはインフレ懸念から利上げ
日本の投資家に根強い人気のあるオーストラリア。この国の経済成長率は年率4.3%と高いのですが、消費者物価指数が前年比3.0%の伸びを示しています。インフレを懸念するオーストラリアの中央銀行は、2008年2月から政策金利を段階的に引き上げました。政策金利の動きと為替レートの推移ですが、2007年8月以降、1豪ドルは95円台であづたのが、金利引き上げ以降は97円台と強い動きを示しています。


 
金利差が通貨の需給に影響するのがふつうだが...
中央銀行が金融機関に貸し付ける際に指標とする金利を変更すると、為替市場は敏感に反応します。為替レートがどのように動くのか、前項のサブプライム問題を例に詳しく見ていきましょう。

アメリカのFRBは、サブプライム問題による景気減速を懸念してFFレートを引き下げましたが、それ以前は4.5%でした。低金利政策をとる日本のコール金利が0.5%なので、その金利差は4%。この金利差がさらに拡大すると想定します。投資家は高い金利に集まるので、円をドルに替えてドルの外貨預金やドル建てのMMFの取引が増えるでしょう。また、スワップポイントを狙ってレバレッジの効くFX投資も活発になるはずです。為替レートが一定の範囲内で推移していれば、金利差が大きな収益を生むからです。多くの投資家が同じように考えれば、為替市場では円売り・ドル買いという需給になって表れます。

しかし、現実は逆でした。 FF金利は下げられて金利差が縮小したので、投資家は魅力のなくなったドルを円に転換しようとしたのです。このため、今までの円売り・ドル買いの動きは反転し、需給が崩れて為替レートは円高ドル安に動きました。

こうして見ると、金利差はとてもわかりやすい投資判断の基準のように思えます。ところが、為替市場が金利の引き上げや引き下げを早くから予想して、為替レートにそのことを織り込んでいる場合があります。すると、金利変更の材料が出尽くし感となり、為替レートが短期的に逆に動くこともあるのです。為替相場は、その時々の材料や思惑もからんで金利だけでも決まりません。


 
円との金利差が大きい南ア・ランドで試算してみる
南ア・ランドは、FXにおける取扱量が米ドルや豪ドルに次ぐ多さです。それほど貿易量が際立って大きいわけでもなく、日本と馴染みがあるわけでもありません。個人投資家に好まれる最大の理由は、円との金利差が非常に大きいからです。

南アフリカ共和国の政策金利は11.0%。日本の政策金利との差は、10.5%もあります。例えば、円を売って南ア・ランドを購入したとして計算してみましょう。

南ア・ランドを13円で10万ランド購入すると、130万円必要です。1ヵ月後に10万ランドを同じ値段の1ランド=13円で売却したとすると、その金利差による収益は、10万ランド×11%×30日間÷365日=904ランド
これを円に直すと、904ランド×13円=1万1,753円

一方、円で運用した金利は、130万円×0.5%×30日÷365日=534円
ランドの金利は、概算で約22倍にもなるのです。

次に、30日後の為替レートが12.89円とします。 10万ランドを売却して円に替えたと想定すると、円での受取額は、  128万9,000+904×12.89=1,300,653円

円を1ヵ月間口座に放置しておいたのとほぼ同額になり、損得は生じません。つまり、1ランドで0.11円の円高になっても、円の元本はマイナスにならないということです。このように、金利が高いと為替レートでの損をカバーすることができます。


 
景気動向は遅れて為替相場に反映する
日本の景気がよくなっても、国内の投資家は自分の保有する円がほかの通貨より強くなったと感じる人は少ないかもしれません。為替相場の需給と景気動向は無関係にさえ感じます。

実際、景気がよくなれば海外からの原材料やサービスだけでなく完成品の輸入も多くなり、貿易収支を含む経常収支のマイナス要因になります。貿易収支が赤字になれば、円をドルなどに替えて海外に支払う金額が増え、円は一時的に需給が悪化して弱くなるのです。

ところが、さらに国内景気が拡大して企業収益がよくなれば、株式市場などの活況で外国からの投資が増加し、資本収支のプラス要因になります。このことは為替相場にも反映され、需給が好転すると初めて円が強くなるのです。逆に不景気になると、在庫が積み上がった後で原材料の輸入が落ちて一時的に国外への支払いは減少。やがて株式の売却などが進んで需給は悪化、円は弱くなります。このように、景気動向が為替市場の需給に反映されるまでにはタイムラグを生じるのです。

貿易相手国の景気動向か為替相場に反映する
日本のような設備投資主導型の経済の国において為替相場が敏感に反応するのは、むしろ主たる輸出先であるアメリカやEU、中国を含む東南アジアの景気動向によってです。特に日本から見て重要なマーケットであるアメリカの景気に、為替相場の需給はすばやく反応します。アメリカ経済は消費主導型であるため、景気がよくなれば日本からの輸出が直接的に伸び、受け取るドルが多くなってより多くの円買いになるのです。


 
経常収支が赤字の通貨は弱い
慢性的に経常収支が赤字である国の通貨は、基本的に弱い動きをすると考えて間違いありません。東南アジアの多くの国々では、主要な加工産業が成長しておらず、輸出の主力は1次産品と呼ばれる鉱物資源や農産物がほとんどです。特に農産物は天候に左右されやすいため天候不順で不作が予想されると、貿易収支の赤字や税収不足による財政収支の悪化が懸念されて為替は弱くなります。

ドルは国際収支に影響されにくい
アメリカの場合は、事情が違うようです。先に述べたように、アメリカは常に財政赤字と貿易赤字、いわゆる「双子の赤字」に悩まされ続けてきました。それならドルはいつも弱い動きを示していそうな気がしますが、実際は必ずしもそうではありません。その理由についてある経済学者は、アメリカは貿易収支こそ赤字だが、資本収支は黒字を維持しているからだといいます。また、別の専門家にいわせれば、ドルは基軸通貨としての役割を果たしているから、弱い動きにはなりにくいそうです。

しかしアメリカのように高いレベルの技術力に支えられた産業基盤をもつ国では、国際収支の結果が為替相場の需給に直接的な影響を与えないです。そもそも、国際収支はその国の企業の競争力や資本の厚みを示していて、その収支は金利や物価、経済成長力にまず直接の影響を及ぼし、それらを介して為替需給に影響をもたらすはずです。アメリカの貿易収支の統計発表に一喜一憂することは
なく、あくまでも投資するうえでの判断材料の1つくらいに思っているのがよいでしょう。


 
投資にふさわしい政治情勢か見極める
国際収支と並んで為替相場に大きな影響を与えるのが、その国の政治情勢です。国内の政治が安定していれば、その国の外交政策はとりあえず信頼できます。しかし、政治情勢が不安定になって政権交代といった大きな動きになると、投資家も注意が必要になってきます。新しい政権が、常に前政権の政策を継承するとは限らないからです。場合によっては、開放されていた海外からの投資が閉鎖的になったり、国外への送金ができなくなることも考えられるでしょう。当然、新規資金が入らなくなれば、その国の市場は急落することになり、投資資金はみるみる目減りします。最悪では、これまで
の投資資金の回収ができなくなることさえ起こり得るのです。

また、グローバル化した世界では、新政権が環境問題に後ろ向きであるとか、旧態依然とした制度を積極的に改革していないなどと判断されると、株式市場や為替市場が下落することもあります。市場の声はボーダレスで内政干渉はないのです。

その国の安定した需給バランスは、海外からの投資を呼び込めるかどうかにかかっていて、まずは政治情勢をしっかりと見極めたいところです。およそ以下のポイントをチェックするとよいでしょう。

政治情勢のチェックポイント
・民主的な政治体制かどうか
・議会において与党が多数を占めているかどうか
・政権は政治改革や環境問題に対して積極的か
・政権の経済政策は開放的で、グローバル化されているか
・政権の外交政策は協調的か


 
個人の金融資産は需給の振帷幄を拡大する
日本銀行が四半期ごとに発表している資金循環統計によると、個人の金融資産が毎年最高額を記録する勢いで伸びているのがわかります。今では、実に1,600兆円に届<ほどです。これだけ大きな個人の金融資産が、高い利回りや売買益などを求めて動けば、為替市場に与える需給のインパクトは多大です。特に、日本のように低金利の金融環境が続くと、メディアによる情報も手伝って、急激で大きな資産変化が生じます。その最も顕著な動きが、2003年ころから活発化した円キヤリー取引です。

国内の低金利に嫌気がさした個人投資家が、より金利の高い金融商品に向かったのです。確かに、今でも個人の金融資産のほとんどは金融機関に預貯金として保有されています。投資に振り替わった金融資産は、全体の10%に満たないほどでしょう。しかし、驚くことにそれでも円は対ドルで115円まで安くなったのです。サブプライム問題によって円キャリー取引の動きは鈍化しましたが、アメリカの金融市場が落ち着きを取り戻せば、すぐに個人投資は再燃することでしょう。

外貨準備金の有効活用が注目されている
近年、特に注目を集めているのが、外貨準備金の有効活用論です。外貨準備金とは、相場を安定させる目的で外国為替市場へ介入するために国が保有している資金のこと。中東諸国や中国のように豊富な外貨準備金をもつ国々が、その資金を投資に振り向け始めたのです。この資金は規模が大きいだけに、為替相場の需給に与える新しい要因になるでしょう。


 
円キャリー取引の定義
円キャリー取引は、英語でぱYen Carry Trade"。 "Carry" は、「日歩、金利を稼ぐ」という意味で使われるので、円キャリー取引は「円が金利(日歩)を稼ぐ取引」と訳すことができます。

特に為替市場の関係者は、第1に「短期金融市場から低金利の円資金」を調達すること、第2に「高利回りの外貨」で運用することを円キャリー取引と呼びます。このことから、個人投資家の行うFXは金融市場から短期資金を調達していないので、円キャリー取引ではないという人もいます。手元に保有している円資金を運用しているだけで資金の調達コストがかかっていないことから、単なる投資パターンの1つにすぎないというわけです。

このように、円キャリー取引には、はっきりとした定義がありません。次のような要件が必要であると考えます。
①(低金利の)円を調達、あるいは利用する
②外貨で運用する
③為替ヘッジはしない
④投資目的は外貨との金利差

上記のうち為替ヘッジとは、将来に外貨を円に戻すレートをあらかじめ決めておくことです。為替相場の変動による損失は避けられますが、調達した円資金と外貨商品との利ざや(スプレッド)を稼ぐことはできなくなります。 FXの個人投資家は、外貨商品に投資するとき、国内で運用すれば得られるはずだった円の利回りを放棄しています。これをコストと考えれば、FXを円キャリー取引に分類しても違和感はありません。


 
金融政策が変更されずに続いた
一時なぜ円キャリー取引は、これほどまで注目されるようになったのでしょうか。その最大の原因は、日本国内の金利環境にあります。10年ほど前に遡って詳しく探っていきましょう。

1990年代後半、日本の金融機関は不良債権の処理に奮闘していました。銀行が国際業務を行うために維持しなければならない自己資本比率8%を下回るような事態にまで追い込まれたのです。海外の格付会社が日本の金融機関の評価を下げたため、米ドルなど外貨の調達も困難になりました。懸念される金融不安に対して、日銀はゼロ金利と量的緩和政策を打ち出して、デフレ対策と資金の流動性の確保に努めたのです。その後、公的資金の注入や合併を経て金融機関の経営体力は改善していきました。しかし、デフレ傾向からの脱却には至らず、ゼロ金利と量的緩和政策は、2006年まで続くことになったのです。

豊富な円が海外に流出
金融緩和策が解除されても、豊富な円資金は市中にあふれていました。これに狙いをつけたのが、外資系金融機関です。クレジットラインと呼ばれるいつでも容易に借り入れできる信用枠を使い、豊富で低金利の円資金を短期の金融市場で調達すると、ニューヨークやロンドンの本店に引き渡して、これを元手に収益の拡大を図っていったのです。

やがて、これまで投資には消極的と見られてきた個人投資家も、円での運用を見限って、為替リスクをとりながら金利の高い外貨の運用を始めるようになったのです。


 
国内預金から外貨投資へ
日銀のゼロ金利政策を利用した円キャリー取引によって、円資金はダイナミックに世界中を駆け抜けました。しかし、ゼロ金利政策で最大の被害者になったのは、個人投資家にほかなりません。特に、定年を迎えた団塊の世代は、退職金を国内の預金や債券に投資しても、老後に満足のいく生活をまかなえるだけの金利収入は得られなくなっていたのです。長引<低金利に不満を募らせた末、円キャリー取引という新しい手法に頼らざるを得なかったという一面もあります。物価水準の低いニュージーランドやマレーシア、タイなどで年金生活を送る勇気はないが、金利水準が高いそれらの国々の通貨へ投資しようという意欲が湧いても不思議ではありません。

このような背景から、個人が投資する外貨建て金融商品として、外貨預金や外貨建て投資信託、FXの残高は拡大していったのです。

幅広い金融商品に関心をもつ個人投資家
個人投資家のする円キャリー取引は、米ドルのような身近な外貨預金から始まりました。当初、投資資金は預けている銀行預金を取り崩すのではなく、新しく手元に入ってきた資金を振り向けるという消極的なものでした。その後、ユーロや豪ドル、NZドルで預金する人が増えていったのです。やがて外貨建てMMFなどにも金融商品は拡大しました。そして、毎月分配型の外貨建て投信も債券型から配当利回りの高い株式投信へ、さらにFXを通じて南ア・ランドのように馴染みの薄い高利回りの外貨も取引されるようになっていったのです。